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した。ですから私たちは現地の実状を拝見いたしまして、そして地元の皆様方の声をお聞きし、それをシルクロード全域の観光交流の促進にお役に立てばというふうに願っている次第でございます。私がこれからお話ししますことは、そういう皆様方のご意見を聞くためのたたき台だというふうにお受け取り頂だいたら幸いでございます。
観光の対象になります色々な観光資源というものがございますけれども、その重要なものの一つとして文化遺産というものがあると思います。ユネスコがご存じのような世界の色々な文化遺産を指定しておりますけれども、特にそれは古代の遺跡が主なものであります。これをいかに保存して活用するかということが問題になると思います。文化遺産を大切に保存しなければならない、特に私の関係しております古代遺跡を保存しなければならないという目的のためには、それを密閉して開放しないでおくとか、あるいは地下に埋めてしまっておくとか、これが一番保存にいいんだという考え方もあると思います。ところがその折角のものにふたをして誰にも見せない、あるいは地下に埋めてしまうということになりますと、私たちが今考えております観光というものをシャットアウトしてしまうということになって、その辺をどういうふうにお互いに共存させていくかが問題になってくるかと思います。
文化遺産というものを何故保存しなければならないかという事をこの際もう一度考えてみる必要があると思います。文化遺産というものは人間が作ったものであり、特に過去の人が作ったものでありますけれども、その文化遺産を見ることによって、私たちはその作った人がどういう人生観を持っていたか、世界観を持っていたか、善悪の考え方はどうか、あるいはどのような宗教観を持っていたかというような事が、その作品を見ることによって分かるのです。私はインドの石窟寺院、あるいはアフガニスタンの石窟寺院、そういうものも調査してまいりました。有名なインドのアジャンタの石窟、あるいはアフガニスタンのバーミヤーンの石窟、それからこの中国にある敦煌の石窟あるいは雲南の石窟、そういうものを見ますと、それぞれみな同じようなものでございますが、しかしそこに描かれております絵あるいは彫刻を見ますと、それぞれの国の違いというものが分かるのであります。
それから、例えば敦煌の壁画にしても唐代のものを見る場合と、それを模写した壁画を見る場合とはそれも違うんです。模写したものは確かにそれも素晴らしいのですが、しかしそれは現代の芸術作品なのです。同じように描いているけれどもやはりそこには唐代の絵画には唐代の中国の人のものの考え方が反映している。現代の人が同じものを模写しているけれどもやはりそこには現代の人の人生観や宗教観といういうものが実は反映しているのです。今、世界では国際友好という問題が非常に大きなテーマになっておりますが、その場合でも例えばイランと友好したい、あるいはイラクと友好したいあるいはエジプトと友好したいというときに、ではイランの人、イラクの人、エジプトの人がどういうものの考え方を持ってそして何を期待しているかということを知る必要があるのです。
相手のことを知るという事が国際友好の最初の事です。その時にイランやイラクやエジプトの事を書いた本やガイドブックなどを読む事も一つでしょう。しかし、それよりもイランの人、イラクの人、エジプトの人が実際に作ったものを見ることの方が、または、イランやイラクやエジプトに実際に行って、そこで生活する、実際に見る、これが一番相手の国または国民を理解する最良の方法だろうと思います。そういう意味で最初に申し上げましたように観光ということで色々な国へ行ってそこの素晴らしいものを見るということ、学ぶということ、これが私たちの今後の生活を豊かにするということを私は信じて疑いません。
それで話を敦煌の石窟に戻しますと、実は敦煌の莫高窟の保存について、今年の2月に日本の奈良でシンポジウムを開きました。敦煌研究院の方々、日本の東京の国立文化財研究所それからアメリカのゲッティ保存科学研究所の方々が集まりました。そういうところの方々が皆、現在敦煌の石窟の寺院の中で、色々な調査をしていまして、一体、敦煌の石窟が徐々に崩壊していくその原因はどういう事かということを調べていらっしゃいます。そういう調査の結果、

 

 

 

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